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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14404号 判決 1970年9月08日

原告 木村武一

右訴訟代理人弁護士 菊地政

同 増沢照久

被告 泰平商事株式会社

右代表者代表取締役 広川キヨ

右訴訟代理人弁護士 牧野彊

主文

一、原告は別紙第一目録記載の土地について別紙第二目録記載の地上権を有することを確認する。

二、被告は原告に対し別紙第一目録記載の土地につき別紙第二目録記載の地上権の設定登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は昭和二七年三月七日訴外東合名会社(以下訴外会社という)と同会社所有の別紙第一目録記載の土地(以下本件土地という)について売買契約をなし、その頃これが売買代金として金八九万一、六〇〇円を支払ったところ、訴外会社は遽かに売買は一筆全部の土地でなければ困るとの申出があったため該土地売買契約を該土地に地上権を設定する契約に改める合意が成立し、その対価を右土地売買代金と同額とすることとし、右支払代金を地上権設定の対価に充当したものである。而して、地上権設定契約の内容は堅固な建物所有を目的とし、地代は一か年該土地全部に対する当該年度の公租公課、(当時は固定資産税)を前記土地の割合により算出した額に一割を加算した額とし、その支払期は年一回とし、当該年度の一二月末日とすることを約した。

(二)  原告は右地上権設定契約の成立後直ちに該地上に鉄筋コンクリートブロック造平家建(床面積五七・八五平方メートル、一七坪五合)の築造に着手して之を完成し、東京法務局渋谷主張所昭和二七年一〇月一八日受付第二一三四二号をもって保存登記を経由した。そしてその地代はその後右土地に対し都市計画税が賦課されることとなったため、昭和四二年までは固定資産税額を前項記載の割合で算出した額を、更に昭和四二年からは同一の方法で算出された都市計画税の一一割を加算することとなって昭和四二年度分までこれが地代を支払ってきた。

(三)  ところが右訴外会社は前記土地全部を昭和四三年一〇月四日被告会社へ売却し、同日前記法務局出張所受付第三七二五七号をもって所有権移転登記を経由した。しかしながら、原告の本件土地に対する地上権は未登記ではあるけれどもその地上建物は登記されているので、「建物保護ニ関スル法律」第一条により右地上権をもって第三者たる被告に対抗しうる。

(四)  然るに、被告は原告の右地上権を否認する如き態度を示すので、これが地上権存在の確認と、本件土地に対する地上権設定登記手続を求めるため本訴に及ぶ次第である。

と述べ、被告の抗弁事実を争(った。)証拠≪省略≫

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

(一)  請求原因第(一)項の事実は、原告主張の本件土地を含む四九二・九九平方メートル(一四九坪一合三勺)が訴外東合名会社所有のものであったこと、訴外会社が昭和二七年三月頃原告から金八九万一、六〇〇円を受領したことは認めるが、その余の事実は全部否認する。右金員は後記(四)記載のとおり賃借権設定に対する礼金であって原告が主張する様に地上権設定の対価ではない。

(二)  同第(二)項の事実は、原告が本件土地にブロック式建物を築造したこと(ただし時期は不明)、右建物について原告主張の如き保存登記がなされたことは認めるが、その余の事実は不知。

(三)  同第(三)項の事実は、被告が本件土地を買受けその主張の日移転登記を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)(1)  本件土地は、昭和二七年三月原告から最初賃借の申込があったので、ブロック式建物の所有を目的として期間は二〇年、賃料は今後一〇年間に限り、本件土地に課せられる公租公課に対し一割の金額を加えた額とする約定にて賃貸したものである。

(2)  もともと、訴外会社は現在国府田源三及び北村明の両社員より成る不動産の取得利用等を目的とする同該会社であるが、別紙第一目録表示の本件土地を含む四九二・九九平方メートルは同社が戦前より所有賃貸して来たものである。又、右土地のうち、原告に賃貸した本件土地を除く土地のうち北側の一五六・三九平方メートル(四七・三一坪)は昭和二八年一月訴外鈴木光枝に対し礼金八五万円でブロック式建物の所有を目的とし、期間二〇年の約定で、又、その南側(本件土地と右土地との真中になる)の一六五・六八平方メートル(五〇坪一二)については昭和二八年四月訴外某に対し礼金九〇万円で使用目的、賃貸期間は右と同じ約にてそれぞれ賃貸しているのであって、原告の場合だけを特別に取扱い地上権を設定する筈はない。

又、原告から受領した金八九万一、六〇〇円の礼金は地価に比して極めて少額である。

と述べ、抗弁として、

仮に、原告主張の日時、主張の如き、地上権設定契約が成立したとしても、二〇年近くの間、一度も前所有者に対し地上権設定の登記を請求せずにおきながら、三名の賃借人がいるだけであるとの訴外会社の言明を信じて本件土地を買受けた被告に対し突如かかる請求をすることは信義則上許されない。

と述べ(た。)証拠≪省略≫

理由

一、本件土地につき原告と訴外会社との間で昭和二七年三月七日建物所有を目的とした借地契約が成立したこと、その借地の対価として原告が訴外会社に対し金八九万一、六〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがない。

二、右借地契約につき、原告は地上権設定契約を主張し、被告は賃貸借を主張するのでこの点について検討する。

≪証拠省略≫を綜合すれば、原告は昭和二七年三月頃、土地を買い永住しようと考え売地を探していたところ、たまたま本件土地を含む訴外会社所有の東京都渋谷区代々木二丁目一一番一七所在宅地四九二・九九平方メートルが、三・三〇平方メートル当り金一万五、〇〇〇円で売地として出ていた。当時原告としては資金の金策がつかなかったので一部を売ってくれないかと頼んだが、訴外会社としては一部の切売りは困ると言う事で断った。そこで、原告は登記はそのままで良いからと、時価相当額を支払い、その使用の対価として公租公課にその一割を加算した額を毎年一二月末日一回に支払うと言う事で本件土地につき借地契約を締結しその直後鉄筋コンクリートブロック造平家建居宅一棟五七・七五平方メートル(一七坪五〇)を建築し、同年一〇月一八日頃登記し、以来右土地に対する固定資産税(その算出方法は本件土地を含む東京都渋谷区代々木二丁目一一番一七の土地に対するものを面積の比率で算出した額)の一一割の金員を地代として支払い、昭和四二年度以降は新に賦課されることになった都市計画税を前記方法で算出した額をも含めて支払うようになったことを認めることができる。

ところで、被告は訴外会社は不動産の取得利用等を目的とする会社であり本件土地を含む前記土地は戦前から賃貸してきたもので、現に本件土地の北側の土地はほぼ原告と同様の条件で賃貸しており、原告に対してのみ地上権を設定する理由がない旨主張し、≪証拠省略≫によると訴外会社は昭和七年一二月六日設立された不動産の取得、利用等を目的とする会社であること、≪証拠省略≫によると戦前右土地上には貸家をたててこれを賃貸してきたことが認められるが、右認定の事実は必ずしも前記認定の事実と相入れないものとは言い難いし、又、≪証拠省略≫によると前記土地のうち本件土地以外の部分については、他に原告とほぼ同様の礼金を受領して賃貸している旨供述するが、同証言によるとその契約成立の時期及び賃料の定め方などの点において原告の場合と異っていることが認められるところ、その契約成立当時の事情を明らかにする証拠がないので、単に右証言のみでは前記認定の事実を左右するに足るものとは言い難い。

≪証拠判断省略≫

三、以上認定の事実によると、戦前において地上権設定契約をなすことは稀であることは公知の事実であるけれども、地価相当額の対価を支払い、その使用の対価としても公租公課の一一割と言う通常の賃料とは考えられない低額の金員を支払っていること、及びその建物も通常木造の建物と比較して堅固な建物と考えられている建物を建ててこれを使用して来たこと等を綜合すれば、右土地使用の契約は原告主張の如き地上権設定契約と解するを相当とする。

四、なお、地上権につき地上建物につき登記がなされている場合「建物保護ニ関スル法律」により右地上権をもって、登記以後に右土地を取得した第三者に対抗しうるところ、被告が右土地を右建物登記後である昭和四三年一〇月四日訴外会社から買受け取得したことは当事者間に争いがない。

五、又、被告は信義則違反を主張し、弁論の全趣旨によると、原告において本件土地利用後約二〇年の長きにわたって本件土地を使用しながら訴外会社に対し地上権設定登記を請求しなかったことが認められ、又、被告が賃貸借契約が存在するとのみ考えて本件土地を取得したことも、≪証拠省略≫によりこれを認められるところであるが、原告本人尋問の結果によると、本件土地の利用関係につき本格的な争いが生じたのは被告において本件土地を買受けた後であり、そのため原告は本件土地の使用につき不安を生じ本訴請求をなすに至ったことが認められるのであるから、右認定の如き事実のみでは原告の請求を信義則違反とは言い難いところ、その他本件に顕れた証拠によっては原告の請求が信義則違反であるとの事実を認めるに足る証拠はない。

六、以上説示の理由により、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅純一)

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